アリとキリギリスの童話を覚えているでしょうか。ディズニーでは1934年にアニメ映画にもなっているので映像として覚えている方もおられるでしょう。働き者のアリと、歌ってばかりいる楽天的なキリギリスの童話です。

暑い夏の間アリは、食料が手に入らなくなる冬のためにせっせと食べ物を集めますが、キリギリスは毎日バイオリンを弾いたり歌ってばかりで楽しく過ごします。また、働いてばかりいるアリを「少しは遊んだら良いのに」とバカにすることもありました。

現代のあらすじやディズニー映画では、最終的にアリがキリギリスを助け、キリギリスは生き延びる場合が多いようですが、元々の原作ではそうではなかったようです。今回は、この童話について紹介していきましょう。

「アリとキリギリス」は「太陽と北風」「ウサギとカメ」「金の斧、銀の斧」「ガチョウと黄金の卵」などを作ったイソップ寓話の一つであり、元々は「アリとキリギリス」ではなく、「アリとセミ」でした。

確かに「夏の間歌ってばかりいた」という舞台設定には、秋に歌うイメージがあるキリギリスよりもセミの方がしっくりきますね。

しかし、イソップ寓話として作られた場所のギリシャから、ヨーロッパに伝わる際に、ヨーロッパでは、暑い場所にしか生息していないセミがあまりなじみがなかったことから、キリギリスへと書き換えられたようです。

また、日本に伝わった際には本家のギリシャからではなくヨーロッパから伝わったため、セミではなく、最初から「アリとキリギリス」として伝わってきました。

古くから俳句や和歌に詠まれるなど、昔からセミになじみのある日本なら、ギリシャから「アリとセミ」として伝わっていた場合、もしかしたらそのままのタイトルだったかも知れませんね。

さて、物語では夏が終わって秋になってやがて寒くなり、冬になった時にキリギリスは食料もなく、雪の降る中を凍えながら、アリの住んでいる家を訪ねてきます。

「寒くて食べ物もなくて、お腹がすいて凍え死にそうです。食べ物を分けてもらえませんか」というキリギリスにアリは「あなたは夏の間、どうして食べ物を集めなかったんですか?何をしていたんですか?」と尋ねます。

するとキリギリスは「歌ってばかりいたのでそれで忙しくて、集めませんでした」と答えます。好きなことをしていたのに「忙しくて暇がなかった」というこの答えは、何だか困った新人社員さんのような答えですね。

ここから、現代のあらすじではアリはキリギリスを家の中に入れてあげ、ご飯をごちそうして「たくさん食べて、また歌やバイオリンを聴かせてください」と言い、キリギリスはお礼にバイオリンと歌を歌う、という場合が多いようです。

ちょっと優しすぎるアリさんですね。「自由に自分の好きなことをしていても、誰かが尻拭いをしてくれる、何とかなる」という悪い教訓になりかねません。ところが、以前のあらすじでは、アリはキリギリスにこんな冷たい一言を言い放ちます。

「夏は歌っていたなら、冬は踊っていれば良いんじゃないですか?」そしてキリギリスを家に入れず、食べ物も分け与えず、キリギリスは凍え飢え死んでしまいます。

元々のあらすじの方が、自業自得と言うか子供に読み聞かせをするには、良い教訓になるような気がするのですが、どうでしょうか。