北風と太陽、と言えば北風と太陽が「ある旅人の上着を脱がせた方が勝ち」として、それぞれの強みを活かして力比べをする物語ですね。

北風は旅人に、力任せに冷たい息を吹きかけて、何とも強引にその上着を脱がせようとするのに対して、太陽は暖かい日差しで、上着を自ら脱ぐように旅人に促すため、「なるほどなあ、太陽は北風よりも頭が良い」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

また、物語のあらすじから受け取れる教訓として「人を動かすためには強引に接するよりも、優しく、思いやりを持って接しよう」ということを伝える物語である、と把握している方もおられるでしょう。

ですが実は原作では、こちらは二回戦目で、なんと一回戦目は力任せの北風が勝利していた、ということをご存知でしょうか。一回戦目では、頭の良さそうな太陽は、どうして北風に負けてしまったのでしょうか?今回はこちらの物語について紹介していきましょう。

さて、「北風と太陽」という童話は、「アリとキリギリス」「ウサギとカメ」「金の斧銀の斧」などと同じ作者であるイソップ寓話の中の一つです。元々は、太陽神のアポロンと北風の神ボアレスの物語でもあったのではないかと言われています。

先に記した通り、実は、物語として広く知られているのは二回戦目の太陽が勝利した勝負であり、一回戦目では旅人の上着ではなく「帽子」を脱がせた方が勝ちだ、という勝負をしていました。

太陽が、広く知られる物語と同じように、暑い日差しを旅人に与えてさんさんと照りつけると、旅人は日差しを避けようと、帽子をさらに深くかぶってしまったといいます。

これに対して、北風は旅人の帽子めがけて「びゅうー」と思いっきり強く冷たい息を吹きかけます。そうすると、旅人の帽子はあっという間に飛んで行ってしまいました。

このようなわけで、一回戦目は北風の勝ちとなりました。二回戦目は物語になっているように、旅人の上着を脱がせた方が勝ちという勝負を行うことになり、今度は太陽が勝ちます。

なので、北風と太陽の勝負は1対1で引き分け、ということになり、同時に物語の教訓も変化してくるのです。

現代の物語の教訓は上に示したように、「人を動かすのには、思いやりと優しさが必要である」ということでしたが、太陽が負けたエピソードがあると、以下のような教訓を示すことができるのではないかと思います。

それは、「人を動かすのにも何にしても、いつも同じやり方をしていてはいけない。いつも同じやり方では、うまくいくこともあるが、うまくいかないこともある。

時と場所、その場その場に合ったやり方をして成功をおさめることが重要である」…という教訓が導きだされるのではないでしょうか。

現代の物語の最後には、太陽は北風に対して「僕の勝ちだね。人を動かすには強引な力より、暖かい優しさが必要なのさ」と諭す場面もあり、その言葉が何だか鼻につく、という方もおられるようです。

ですが、原作のあらすじを加えると、「頭が良い」と思っていた太陽も、一回戦目も二回戦目も同じ作戦をとっており、北風と同じく自分の特徴を活かして勝負を行ったに過ぎなかった、ということで、北風も太陽も、頭の良さはあまり変わらないような気がしますね。